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名古屋高等裁判所 平成元年(ネ)213号 判決

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らの訴えをいずれも却下する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ全部被控訴人らの負担とする。

事実

第一  申立

一  控訴人木下、同森

(本案前の控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人大畑町部落有財産管理組合の原判決別紙物件目録記載土地の総有確認請求および被控訴人加藤正治の共有持分全部移転登記手続請求をいずれも却下する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

(本案についての控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人らの控訴人木下、同森に対する請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  控訴人株式会社井上段ボール

(本案前の控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人加藤正治の訴を却下する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人加藤の負担とする。

(本案についての控訴の趣旨)

1 原判決を取り消す。

2 被控訴人加藤正治の控訴人株式会社井上段ボールに対する請求を棄却する。

3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人加藤の負担とする。

三  被控訴人ら

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二  主張

当事者双方の事実上、法律上の主張は、原判決事実第二記載のとおり(原判決四丁表九行目冒頭から一四丁表三行目末尾まで)であるからここにこれを引用する。

第三  証拠(省略)

理由

一  本案前の抗弁について検討する。

1  被控訴人大畑町部落有財産管理組合(以下被控訴人組合という)の控訴人木下、同森に対する本件土地の総有確認請求について

被控訴人組合の右請求は、本件土地が大畑部落民の入会地であり、大畑部落民が本件土地について共有の性質を有する入会権を有しているので、その所有形態は総有であり、また被控訴人組合は、入会権者である大畑部落民によって構成された法人格なき社団であるところ、控訴人木下、同森が本件土地に対し共有持分を有すると主張して被控訴人組合構成員全員の総有を争っているので、被控訴人組合が右両控訴人らとの関係でその確認を求めるものである。

ところで、被控訴人組合の沿革、性格、本件土地の所有形態その取得、管理については、当裁判所も、(一)本件土地を含む本件共同財産を、入会地として管理して来た住民団体が、大畑部落民の入会団体として大正三年ころから次第に組織を整備し、昭和四八年に被控訴人組合を設立し、昭和五二年に名称を現行のとおり改めた。(二)その構成員は、いわゆる「つきあい」の世帯主で、引続き五〇年以上大畑町地域内に居住する者とされ、昭和五二年一二月現在五三名(転入者である準組合員を含む)である。(三)本件土地は、登記簿上大正四年五月二六日受付を以て、同月二〇日付売買を原因として加藤音次郎他二三名の共有に移転登記手続がされているが、当時からの慣習で、所有権の共有持分を他に譲渡することはできず、分家転居のため大字大畑に居住しなくなったときは当日限りこれを没収されることとされ、本件土地の利用方法はこれに立ち入っての伐木等に限られていた。(四)本件土地の所有の実態は、「大字大畑持」(大正三年)あるいは「大畑町部落有財産」(昭和五二年)と規約上呼ばれ、被控訴人組合の構成員である組合員のみが、その使用収益権を有し、組合員資格の得喪がこの使用収益権限と結び付いている上、持分譲渡は禁止され、被控訴人組合の統制が強く働いて、本件土地の収益はすべて同組合に帰属し、支出先は共同施設建設費用、管理費用等に限定されている。(五)昭和四〇年代以降は本件土地に立ち入って伐木する等の利用はされなくなり、その多くを工場用地、鉱業用土地に賃貸して賃料収入を得る収益方法に移行したが、なお本件土地が、組合員である大畑町地域の住民の共同収益の対象地であって、その権利形態が入会権であり、共有ではなく総有であることの基本的な権利関係に変動はない。

以上(一)乃至(五)のとおり認めるものである。その理由は、原判決一六丁裏四行目冒頭から二一丁表五行目末尾までと、二一丁裏二行目冒頭から二二丁表一〇行目末尾までの各認定説示のとおりである(但し、原判決一六丁裏七行目「、二」を削り、一〇行目「一四号証、第一六号証」を「一四ないし第一六号証、第一九号証の二」と訂正し、原判決二〇丁裏一一行目冒頭から二一丁表三行目末尾までを削除する)からこれをここに引用する。

右によれば、本件土地の総有確認請求は、大畑町部落有財産の入会権者である被控訴人組合の組合員五三名全員が共同してのみ提起し得る固有必要的共同訴訟であると解さざるを得ない(最高裁昭和四一年一一月二五日判決・二小・民集二〇巻九号一九二一頁参照)。けだし、右の訴えで請求されている入会権は、権利者である大畑町の一定の部落民即ち組合員に総有的に帰属するものであるから、その権利の確認を、対外的に非権利者である控訴人木下、同森に対して請求するには、権利者全員が共同して行うことが当然であり、かつ必要であること、一部の権利者によって提起された確認訴訟の確定判決の効力が、団体的権利である入会権の性質上当事者とならなかった他の権利者にも及ぶこととなり、特に敗訴判決の場合には甘受し難い不利益を蒙る結果となるからである。

この理は、被控訴人組合に組合規約があり、意思決定機関である総会、代表者たる組合長が置かれ、かつ総会において本件総有確認の訴えの提起につき組合員全員の一致による議決があった場合でもなお同様で、被控訴人組合には当事者適格はないものと解される。

これは被控訴人組合が、前掲甲第一五号証の規約によれば、大畑町部落有財産の管理体制を整え、部落住民の福祉に供することを目的として設置された管理機構にすぎず、入会権を有する構成員ではないから、当事者とならなかった組合員である権利者との関係では、既判力の及ぶ当事者の範囲が依然として不明確とならざるを得ず、万一被控訴人組合が敗訴した場合でも、団体的権利である入会権の確認を、組合員である入会権者の名前で再訴できる結果となってしまうからであり、被控訴人組合が、民訴法二〇一条二項の他人のため原告となった者にあたらないからでもある。

以上のとおり、本件総有確認訴訟は、本件土地に対する入会権の確認を、対外的に権利者でない控訴人両名に対し訴求するものであって、入会部落の構成員が有する使用収益権の確認を請求する訴えとは根本的に異なるから、入会部落の構成員である組合員全員が共同して提起しない限り当事者適格を欠く不適法なものであって、被控訴人組合が提起した本訴も同様であるというべきである。

2  被控訴人加藤正治の控訴人木下、同森に対する共有持分移転登記および控訴人株式会社井上段ボールに対する持分抵当権設定登記抹消登記の各請求について

前記1で認定したとおり、本件土地については加藤音次郎他二三名の共有名義の所有権移転登記が経由されているが、その権利の実体は、入会部落である大畑町の部落民たる構成員五三名全体に帰属する入会権であるから、各構成員はもともと持分を有せず、これを処分することもできないものである。そして入会部落の構成員である右五三名は、本件土地について使用収益権を有するにすぎないから、右収益権と無関係な本件土地の持分登記の移転、抹消を求める登記請求権は、入会権者たる右構成員全員に総有的に帰属するものというべく、従ってこれを訴訟上行使する右各請求も右構成員全員において提起することを要する固有必要的共同訴訟であるといわなければならない。

被控訴人加藤は、被控訴人組合の組合員の一人であり、一時期その組合長、大畑部落の区長を勤めた者であるが、昭和五二年八月一四日の総会において組合員全員の同意を以て処分禁止の仮処分申請の申請人となってこれを提起遂行することの委託を受けた者にすぎない(成立に争いのない甲第二八、第三一号証、原審証人鈴木稔の第二回証言により原本の存在ならびに成立を認める甲第二九号証、同第一、二回証言により前記事実を認める)から、もとより右登記請求権に基づく本件訴訟の提起遂行につき当事者適格を有するものではない。

けだし、組合員総会における本件訴訟の提起遂行の権限の委託は形式的にみれば、信託法一一条で禁止している訴訟信託の禁止に抵触するものであり、実質的にみれば、入会権自体に基づいてのみ可能な管理処分に関する事項について、入会部落の一員として参与し得る資格を有するだけで共有におけるような持分権を有しない各構成員は、構成員各自において、使用収益権に基づく抹消登記手続を求めることができない(最高裁昭和五七年七月一日判決・一小・民集三六巻六号八九一頁参照)から、各構成員が被控訴人加藤に委託すべき権限を元来有しないものと言うべく、各構成員による訴訟遂行権の委託の議決はそれ自体無意味であるからである。

従って、被控訴人加藤の控訴人ら三名に対する持分移転登記および持分抵当権抹消登記請求の訴えもまた不適法である。

二  以上の次第で、本件の訴えは、総有確認請求、登記手続請求のいずれも入会部落の構成員である組合員全員によってのみ訴求できると解すべきところ、当事者適格を欠く者によって提起された点において不適法であって却下を免れない。

しかるに、原判決は控訴人らの本案前の抗弁を排斥し、適法な訴えであるとして本案につき判断しているので、不当であって取消を免れず、この点に関する本件控訴は理由がある。よって原判決を取り消し、被控訴人らの訴えをいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(物件目録は、第一審判決添付目録と同一につき省略)

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